2025年3月9日日曜日

プラネットライカ・自分なりの解釈まとめ(第2回・「ライカ」の過去)

  どうも。

 今回は前回に続き、『プラネットライカ』の自分なり考察を続けていきます。
毎度のことでくどいようですが、ネタバレ注意です。あと、明らかな誤りがあればご指摘ください。

 それでは今回は、ライカを構成する人格達が生まれた理由に進みましょう。つまりライカが多重人格になった原因ですね。


◯三人格の過去

力悪のアーネスト

母親の再婚からしばらくしてからのことです。
虐待に耐えるライカでしたが、そんな彼にも良い事がひとつありました。母タニアが妹を懐妊したのです。
しかし結果は流産。それも継父ウラジミールが図った(注:幼ライカ目線)ことでライカの心に激しい怒りが生まれます。
その怒りと、妹を守るという行き場のなくなった決意。それが人格として切り離されたのがアーネストです。

という訳でアーネストの誕生の瞬間は、その役割が終わった瞬間でもあったという事ですね。

しかしアーネストは、自己否定に繋がる妹の死を受け入れられていません。
自身の中に妹の人格(ほぼ概念?)を作り出し、「ミーシャは死んでいない」という妄想を頑なに信じようとしています。
が、さらにその一方でそれが偽りであることも自覚できているらしく、外見とは裏腹に非常に危ういバランスで成り立っている人格だと感じます。

ちなみに、彼の嘘と、それを信じ切れない正直さを揶揄してか、作中では「正直者のアーネスト」と度々呼ばれています(Ernestという人名は『誠実な』という意味だそうです)。

欲悪のヨランダ

ヨランダは、唯一の味方である母の話し相手となり、彼女を喜ばせる為にライカが作り出した人格です。女性人格かつ社交的なのもその影響でしょう。
母との対話を通して形成されていった人格のようで、恐らく三人格の中で最も古株かと思われます。(スペーサーの生い立ち(後述)を知っているため)

そんな彼女の明確な独立は、ある日突然訪れました。
タニアの自殺です。

ヨランダの呼び掛けによって学校を抜け出したライカはその光景を目にしてしまい、それと同時にヨランダの人格が完全に独立したのです。


彼女もまた、役目を失った瞬間に目覚めた人格という訳ですね。
しかしアーネストと違って徐々に形成されていった為か、母親の死をはっきりと認識しています。
ただそれだけに「タニアを助けられなかった」という無力感に苛まれ続けるという、彼とはまた異なる悲しさを抱えた人格です。

ちなみに、ヨランダという人名の由来は「紫の花」だそうです。意味がありそうでなさそうで。

知悪のスペーサー

スペーサーは三人格のリーダー的存在であり、その成り立ちも大きく違います。

ヨランダ曰く、彼は「本から現れた」「ライカが宇宙飛行士になれたのは彼のおかげ」だそうです。
おそらく母親の期待に応えようとしたライカが、自分を導く存在を求めて作り出した人格なのでしょう。
余談ですが『スペーサー』はアイザック・アシモフの作中に登場する、宇宙移民の子孫の呼称です。本の登場人物をモデルにしたということでしょうか。
(あるいは単に宇宙的な人、程度の意味か)

また、アーネストからミーシャを取り上げる(具体的にどのような状態かはよくわかりませんが)など、他の人格の面倒も見ています。
普段は人格が表に出ている訳ではないようなので、きっと比喩ではなく、内外ともにライカの司令塔なのでしょう。

このように三人格の中では最もまともで有能、かつ役割をしっかり果たしているように見える彼ですが、個人的には最も空回りの人格であると考えます。

その理由は、ライカの「もうひとつ」の人格をご説明してからにしましょう。(厳密には人格ではありませんが)

第四の人格 完全なる善・フェニックス

ライカはもちろん、三人格も知らない、無垢な少年のような人格。

普段は決して表には出てこない彼こそ、預言の『マコトの双子』の片割れ、『完全なる善』です。
その正体は、ライカの本当の双子。
胎内で彼の脳内に取り込まれてしまい、腫瘍となってしまったものです。ピノコですね(これまた古い)。

ところが彼は、腫瘍と化してからも自我を保っていました。更に驚くべきことに、時折ライカの意識を乗っ取っていたのです。父母もライカも知らないことですが。

そしてそのタイミングというのは、「彼が愛されている時」です。
つまり、ライカに愛されていた頃の記憶は基本的にありませんし、逆に言えば父母が愛したのも彼ではありません。
少年のような性格も、悪意を受けずに育ったことが影響していると思われます。

こう書くと、彼を完全な善人と呼ぶことに疑問を感じる人も多いでしょう。
ただ、少なくとも「他人からの悪意」に一切汚されていないという意味では、やはり完全な善に位置するのだと思われます。


そんな彼は、メディスンマンから「シークレットパワー」を授かります。
「心の悪を浄化する力」と説明されますが、正確には「心の悪を他人に押し付ける力」です。ピッタリですね。

それはさておき、以上を踏まえると宇宙飛行士に向いていると言われていたのはおそらく彼の方だと考えられます。
にも関わらず、ライカは宇宙飛行士を目指します。
そしてスペーサーという人格を作り、スペーサーは彼を導きます。

こう考えると、スペーサーの役割は最初から全く意味を為していないと言えるのではないでしょうか。

完全なる悪・ライカ

翻ってライカ。
彼が宇宙飛行士になったのはなぜかといえば、父親が託した夢だから。母親が自分にそう望んだから。
もちろん暴力を受ける母親の期待に応えたいという思いもあったでしょうが、いずれにせよ大部分が「誰か」の意思によるものです。

ライカのキーワードは、この自発的意思の欠如にあると考えます。


これは作中でも繰り返し言及されることであり、例えばヨランダには「自分では何も決められない」、敵にも「ヌケガラ君」などと呼称されますが、まさにその通り。

幸せな思い出は全てフェニックスに取られ、与えられたのは憎悪と母親との慰め合い。
その母親にすら宇宙飛行士という他人の将来を知らず押し付けられ、それを指針に生きていくことを半ば運命づけられ。
数少ない自分だけの望みは全て潰え、そのたびに感情を人格として切り離し、自分自身の決定権さえも別人格に譲ってしまった空っぽのヌケガラ。
今では自分の意思も欲望も無く、「はい/いいえ」という「プレイヤーが選ぶ」返答の他には雑談ひとつできない人形。
(他の人格は少なからず勝手に喋るシーンがありますが、ライカだけは全くありません)

それがライカ、『完全なる悪』です。


なお、ライカは「死んだ心に生きた体」、フェニックスは「生きた心に死んだ体」で、その点でも対になっています。
そういう意味でも、大佐は「ふたつが合わさって完成する」という預言の主旨には向いていませんね。そもそも双子というには年齢が



 さて、ここまでライカの人格の過去にざっと触れたのですが、彼らにはまだ隠された過去…というか罪があります。
次回はその辺りを書ければ良いなと思いますが、いかがでしょうか。


 とりあえず今回はこのあたりで。それでは。